大学教員公募について、考える。

文系の研究者として身を立てるには、大学の専任教員を目指すというのが王道です。しかしながら、大学の専任教員のポストに就くのは、本当に難しいことだと、感じています。公募の場合、1名採用のところ、数百人応募してくるということも。まれにスルっとなれる方もいらっしゃいますが、現役大学教員の多くの先生方は、苦労した末に職を得られたと思います。

 

私も、その難しいチャレンジの渦中にいます。まだ一度も呼ばれたことがないので、いったい、どうやったら公募で採用されるのか、いや、せめて面接まで辿り着けるのかと悩んでいるところです。そんなときにネットで検索をしていたら、「武蔵野日記」という、大学の教員をされている方のブログで、下記の記事を見つけました。

komachi.hatenablog.com

 

その中で、中野雅至先生が書かれた、『1勝100敗 あるキャリア官僚の転職記 大学教授公募の裏側』(光文社新書、2011年)が紹介されていました。とても面白そうだったので、早速読んでみました。

 

1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記 大学教授公募の裏側 (光文社新書)

1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記 大学教授公募の裏側 (光文社新書)

 

 

 

本の内容は、上記のブログにレビューされているので、それをご参照いただければと思います。ここでは、自分の経験から、この本から学んだことにフォーカスして、書きたいと思います。

 

著者は、元々キャリア官僚(厚生労働省)の方でしたが、ある時一念発起して、大学教員を目指されます。大学教員になる方法自体をご存じなかったので、最初のうちは本当にご苦労されています。公務でご多忙のなか、合間を縫って、論文を書き、博士課程に入学し、本格的に査読付論文を書き、そして博士論文を仕上げ、その後もどんどん論文を書きまくる…という努力を積み重ねていらっしゃいます。同書の127~128ページにかけて、「筆者の役人時代の論文一覧」が掲載されていますが、2000年4月~2003年3月までの3年間に、なんと論文を16本もお書きになっています。単純計算で、年間5.3…本。2ヶ月半弱に1本のペースで論文を書いていることになります。

 

大学院生だけをしていて学業に専念できる状況でも、約2ヶ月に1本の論文を書くこと自体、至難の業です。それをフルタイムでお仕事をされながらなさっていること自体が驚異的です。ご本人は、「こうすることしか、大学教員になる方法はなかった」という趣旨のことを書いていらっしゃいますが、そうだとしても、普通やってのけられるようなことではありません。しかも、査読論文の数も多いです。16本のうち7本あります。社会科学系の場合、博士論文が提出できる要件として、査読論文が2~3本くらいが目安(中には1本でいいところもある)かと思いますが、分野にもよるのかもしれませんが、7本は「すごい」としか言いようがありません。

 

ちなみに、博士論文を2年で書き上げたと書かれていますが、これも極めて異例のことです。社会科学・人文科学系の場合、博士課程の修了年限である3年で仕上げること自体、そうあることではありません(ちなみに私は6年かかりましたが、自分の研究分野では標準的です)。自分がいた研究室では、過去に1人しかいません(約20名中)。社会科学系・人文科学系でも、現代的なテーマを扱っている場合は、短期間にたくさん論文を書くという印象がありますが、それにしても、フルタイムで責任あるお仕事をしながら、論文の数と博士論文を仕上げた年限の短さには、もう脱帽です。

 

私も、中高の専任教諭として仕事をしながら博士課程に在籍していたので、その大変さが本当に痛いほど分かります。でも、著者ほどたくさん論文を書けませんでした(年に1~2本)。一般的な大学院生のこなす量をこなすことが、せいぜいでした。しかも、査読付論文は、専任教諭を続けながら博士課程に在籍していた3年間で2本が限界でした。

 

 

この本を読むまでは、博士号を取得した今、論文の数もある程度(10本以上)あり、大学の授業で使うテキスト(共著)も書き、実務経験もあるので、せいぜい面接には呼んででもらえるだろうと高をくくっていました。が、見事にそれは破られました(著者も、同様のことを書いていました…)。それが腑に落ちず、どうやって皆さん職を得ているのだろうと思って手にしたのが、同書でした。中野先生は、どんなに不採用の通知が来ても、その結果落ち込んだとしても、とにかくやるべきこと(=論文を書く)をひたむきにやっていらっしゃいます。そのことに、心より敬意を表したいと思いました。それと同時に、落ち込んでいたり、どうやったら公募に通るかとブツブツ考えている間に、とにかくやるべきことをやるしかないんだ!と思わせていただきました。

 

著者のご経験から、大学教員公募で勝つためには、業績を積むことと、とにかく数多くの公募や採用にチャレンジすることだということが良く分かりました。正直、著者ほどストイックに論文の数を伸ばし、公募も100校以上受けられるか分かりません。でも、そうやってチャレンジした結果、大学教員になられた先達がいらっしゃるのは、大変励みになります。

 

大学公募戦線では、やるべきことをやった上で「絶対に受かるまで諦めない」ことが、唯一の勝因ではないかと思いました。そのことが分かったのが、何よりの収穫です。

 

自分に足りない業績の一つが「単著」です。この本を読んで、それをひたすら頑張るしかない!と決意を新たにしました。もうすぐ夏休み。授業がない分、そこにエネルギーを注ぎたいと思っています。